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eスポーツの市場規模と日本で流行しない理由

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eスポーツとは、テレビゲームをスポーツのような競技として捉えた言葉です。アメリカ、中国、韓国など、海外ではeスポーツ市場が一つの文化として拡大しています。海外のeスポーツは、優勝賞金は1億円を超えるような大規模な大会もあり、eスポーツの試合がゴールデンタイムにテレビ中継される事もあります。大会の賞金で生活するプロゲーマーも数多く存在しており、国全体で大きな盛り上がりを見せています。

NTTデータ研究所の調査によると、2015年の世界のeスポーツ市場規模は8.9億ドル(約1千億円)にのぼり、今後は年率13%程度で成長していくと予想されています。

eスポーツの市場規模と内訳

市場規模の内訳は、スポンサーの広告費がおよそ75%を占めており、如何にスポンサーを集められるかが重要となっています。eスポーツのスポンサー例としては、インテルやロジクールなどのコンピュータ会社がメインとなっていますが、コカコーラやマクドナルドといったゲーム業界に直接関係ない企業も多数存在し、通常のスポーツ広告と同様の感覚になっています。

一方、日本におけるeスポーツは、最近ようやく認知度が上がってきたものの、まだ流行するには至っていません。近年、日本の家庭用ゲーム市場は縮小が続いていますが、それでも単一国家としては、アメリカに次ぐ世界第二位の規模があります(⇒世界のゲーム業界の市場規模)。そんな日本で、eスポーツはなぜ流行しないのでしょうか。

日本でeスポーツが流行らない理由の一つは、海外とのゲーム嗜好の違いです。eスポーツには様々なジャンルのゲームがありますが、海外ではFPSやRTSが人気を博しています。

FPS=First Person Shooting:一人称視点の銃撃戦ゲーム
RTS=Real Time Strategy:リアルタイムで行う戦略型シミュレーションゲーム

eスポーツでは、プロと素人に明確な差が出るゲームでなければ、試合は盛り上がりません。ゆえに、わずかな実力差が勝敗を分けるような、緻密な戦略や操作が要求されるFPSやRTSなどが主流になっています。しかし、FPSやRTSといったジャンルのゲームは、日本では全く人気がありません。そのゲームを知らない人が大半という状況では、流行するはずがありません。

とはいえ、日本で人気の高いスーパーマリオやドラクエなどは、試合をして勝敗を決めるような内容ではなく、eスポーツのゲームとして相応しくありません。

そもそも、日本と海外では文化的な環境が全く違います。よく知られるように、アメリカではスーパーでも拳銃が買える程に身近な存在です。また、韓国では徴兵制度があり、男性は19歳〜29歳の間の2年間を兵役に就く事が義務付けられています。それに対し、日本では一生に一度も銃を触る事がない人が大半です。銃や戦争に対する意識が薄い日本で、銃撃戦であるFPSが人気にならないのは当然と言えます。

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他にeスポーツが流行しない理由としては、日本では未だにテレビゲームは「子供の遊び」という認識が強い事です。例えば韓国では、プロゲーマーは国民からアイドル的な扱いを受けており、街中でサインをねだられる事も少なくありません。大学にeスポーツ学部がある学校もあり、韓国全体でeスポーツを盛り上げようとしている事が窺えます。

しかし日本では、プロゲーマーは職業としてほぼ成立していません。ストリートファイターシリーズで活躍する梅原大吾氏が、日本での唯一と言ってよいプロゲーマーの成功例であり、その他の人は無名に等しいです。当然、プロゲーマーのスポンサーになろうとする企業も出てきません。前述の通り、eスポーツはスポンサーがいないと成り立たないので、結果として日本では大規模な大会が行われないのです。

最大の問題は、法律により高額賞金が出せない?こと

そして、日本でeスポーツが流行らない最大の理由が、法律的に賞金額の大きい大会が開けない(と企業が勝手に考えている)点です。刑法185条には 「賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する」と定められています。勝ち負けに「運」の要素が絡むテレビゲームの大会で、賞金を賭けて戦う事は賭博罪に抵触する(かも知れない)〜という口コミが業界内で広まり、大会を主催しようとする企業が少ないのです。この法律によって、賞金額の大きな大会は行えず、結果としてプレイヤーも視聴者も盛り上がらないという状況に陥っているのです。

もう一つ、景品表示法の問題もあります。消費者庁は、ゲームメーカー自身が賞金を出す大会では、ソフトの購買を前提として熟達のために繰り返しゲームプレイが必要となるので「元商品の20倍の金額、もしくは10万円」が賞金の上限である、という見解を示しています。

2016年にスクウェア・エニックスが行った「ガンスリンガーストラトス3」(ゲームセンター向けの対戦型ガンシューティングゲーム)の公式大会では、当初は優勝賞金が500万円と発表されていたものの、大会直前になって10万円に引き下げられた、という事例があります。消費者庁からどの程度圧力があったのかは不明ですが、法律に抵触する事を恐れて企業が及び腰な事が、eスポーツの普及を妨げている原因です。

ただし、ソフトの購入が必要のないスマホゲームについては景品表示法に抵触しないため、パズドラやモンストなどの賞金額は無制限でも問題ないとの見解なようです。また、ソフトメーカーとは別にスポンサーが賞金を出す場合も、賭博罪には当たらないという口コミ情報もありますが、いずれにせよ「法律の解釈」を巡り微妙な状態での開催となるでしょう。この情勢を変えるには、ソニーや任天堂などの業界の大企業が主体となって、政治家や関連省庁(経産省・法務省・消費者庁など)へ陳情し、法律には抵触しない事を認めさせる必要があるでしょう。

日本でeスポーツが流行らない理由まとめ
・海外のeスポーツで人気のジャンルは日本で流行していない
・韓国のように国全体でeスポーツを盛り上げようとする意識が日本にない
・日本は法律的な問題で大規模な大会は開けない

このように、日本では様々な理由からeスポーツが流行していないのが現状です。とはいえ、最近はこの状況も少しずつは改善されてきています。2016年4月より、東京アニメ・声優専門学校にて、日本初のプロゲーマー育成を目的とした学科「eスポーツ プロフェッショナルゲーマーワールド」が開講しました。また、同じく2016年4月から、CSフジテレビにてeスポーツ専門番組「いいすぽ!」も放送されています。

日本の家庭用ゲーム市場は縮小が続いていますが、eスポーツを流行させる事が出来れば、業界の状況改善の大きなチャンスとなるでしょう。

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