日本と世界の統計データ

メジャーリーグの平均年俸推移

HOME > スポーツ > メジャーリーグの平均年俸推移

日本プロ野球では、メジャーリーグ(MLB)への選手の流出が続いています。当稿執筆時の2017年12月には、日本球界最大のスター=大谷翔平選手が、大リーグのロサンゼルス・エンゼルスにポスティング移籍する事が決まりました。ファンは比較的暖かく送り出す人が多いようですが、球界関係者は人気選手がすぐにメジャーへ流出する現状を嘆く口コミ一辺倒です。

選手がメジャーへ行きたがる理由は、表向きはレベルの高いリーグでプレーしたいという心情ですが、もう一つはやはり「お金」です。大リーグの年俸は90年代以降、青天井で上がり続けており、少し活躍すれば年俸10億円以上は当たり前です。日本のプロ野球ではありえない高額年俸が、選手のメジャー流出を加速させている大きな要因である事は、疑いようがありません。

以下は、1975年以降の大リーグの平均年俸の推移をグラフにしたものです(ソースはMLB選手会の公表値)。

メジャーリーグの平均年俸の長期推移

1975年には4.5万ドルだったメジャーリーグの平均年俸は、その後大きく増加し、2015年には412万ドル(約4億5000万円)と、40年でおよそ100倍にまで膨れ上がっています。一方、日本プロ野球は1975年頃の平均年俸は500万円程度ありましたが、2015年は3800万円程度と7〜8倍の増加に留まっています。

★関連ページ;プロ野球・12球団の平均年俸推移

メジャーリーグの平均年俸が高騰している裏には、MLB全体で収入が大きく伸びている事が根底にあります(2016年はおよそ100億ドル=1兆円以上)。

収入が伸びている理由の一つが、高額なテレビ放送権料です。球団の収入は、チケット売上・ユニフォームなどのグッズ売上・テレビ放映権料が3本柱ですが、中でも放映権料の高騰が図抜けています。アメリカ経済が好調な事(=企業の広告出稿が盛ん)に加えて、中南米や日本・韓国など海外にも放映権を販売できる事が、大リーグの強みです。

メジャーリーグの全国放送の放映権はMLB機構が一括で管理しており、年間の全国放映権料はおよそ15億ドル(約1650億円)です。これを全30球団で均等に分配するので、たとえ弱小の不人気球団でも年間55億円程度の放映権収入が得られる事になります。

そのうえ、全国放送だけでなく地元のローカル局と独自にテレビ契約を結んでいる球団も多いです。放映権料は球団の地域によってかなり差がありますが、合計すれば1球団当たり1億ドル(約100億円)前後あると推計されます。

また、メジャーリーグには二つの収益分配制度があります。その一つが「Base Plan」と呼ばれるもので、全30球団から収入の31%を集め、それぞれの球団に均等に分配する仕組みです。もう一つが「Central Fund Component」で、お金持ちのチームから集金して、貧乏なチームに分配するというシステムです。

ニューヨークヤンキースのような金満球団はチケット収入も膨大な一方、弱小球団は球場に閑古鳥が鳴いているのは、日本と同じです。しかしメジャーでは、この収益分配制度によって、各球団の収入がある程度平均化され、弱小球団でも選手にある程度は高額な年俸を支払える環境が整えられているのです。ドラフトのウェーバー制(下位球団から優先選択権がある)と共に、メジャーではリーグ全体で『共存共栄』する仕組みが徹底されているのです。

実は複数年契約の方が球団は得?大リーグの金融工学

そして高年俸を支える裏側には、金融工学を駆使した球団経営も絡んでいます。大リーグでは、トップクラスの選手は年俸20億円超もざらにあり、しかも「10年=2億ドル(200億円)」などと複数年契約を結びます。その代わり、年俸を選手との契約期間内で全てを支払わない、時には現役引退後10〜20年にわたって分割で支払う約束、なども多いのです。

例えば、2014年オフにマックス・シャーザー投手(2年連続最多勝)が、ナショナルズと契約した「7年=2億1000万ドル」という超大型契約は、半分(1億500万ドル)が契約期間内の7年間、残り半分を契約終了後の7年で支払うという変則的な設定でした。分割した方がシャーザー投手が節税になるそうですが、実はナショナルズ側も支払いを先延ばしして、その間の投資運用益でお金を増やす事が可能だという裏事情もあります。将来払う1億500万ドルは、アメリカ経済の「割引現在価値」に直せば、3分の2程度の負担で済むからです。

アメリカ株の長期的な平均利回りは約7%あるので、7年後の1億ドルは現在の6300万ドル程度に相当する。これがナショナルズの「実質的な年俸負担額」と計算するのが、割引現在価値です。

というように、支払いを将来の長期に渡って分割する契約なら、球団側の実質的な年俸負担は、契約の額面金額よりもずっと少ないのです。このような金融工学を駆使して、メジャーの球団運営はなされているのです。その反面、運用に失敗すると年俸を払えなくなるリスクもあります。

割引現在価値は本来、インフレ率だけで計算するものですが、メジャーの球団は株式投資などで積極運用することで、より高い運用益を見込んだ経営を行っています。大リーグでは、主力選手がトレードで金満球団へ放出される事も珍しくないのは、その球団の年俸原資の運用が芳しくない事が理由です。

メジャーリーグの平均年俸推移まとめ
・大リーグの平均年俸は過去40年でおよそ100倍に増えた
・テレビ放映権料もチケット収入も大きく伸びている事が理由
・大型の複数年契約は、実は球団の負担が小さい(割引現在価値)

ちなみに、メジャーリーグでは選手の年俸総額が基準値をオーバーした球団に対して、ぜいたく税と称したペナルティ(罰金)が課せられる事になっています。2015年の基準値は1億8900万ドルで、ドジャース、ヤンキース、レッドソックス、ジャイアンツの4球団がこれを超過しています。最も多くぜいたく税を支払ったのはドジャースの4360万ドル(約53億円)でした。

 
※当ページへのリンクはご自由にどうぞ。但し画像・文章の転記や複製は禁止です。引用される際は当ページへリンクして下さい。
Copyright (C) 2017 https://toukeidata.com/ All Rights Reserved.