HOME > 医療と健康 > フランスの出生率が回復した理由
近年、日本など先進国は元より、中国などの新興国でも出生率が低下傾向にあります。特に先進国は出生率が2を割り込んでいる国がほとんどで、例えば日本の2015年時の出生率はわずか1.46で、少子高齢化が急速に進んでいます。そんな中で、フランスはここ10年程で出生率が上昇傾向にあります。フランスもイギリスやドイツ同様、20世紀後半に出生率は漸減し、1994年時点では1.73でしたが、2015年には2.01にまで回復しているのです。
フランスの出生率が回復している理由は色々あります。その一つが、N分N乗方式制度(世帯課税方式制度)です。この制度は、子供が多ければ多い程、税金が軽減されるという仕組みです。子供が1人の場合では軽減税率は低く設定されており、2人以上産む事を推奨した制度となっています。子供をたくさん産んだ方が税金が減って生活が楽になるという仕組みが、出生率を伸ばす事に繋がっているのです。
他にPACSという制度も、出生率の回復に貢献しています。PACSとは、2人で共同生活を行っていくために結ばれる契約(異性か同姓かは問わない)で、俗に言う事実婚を容認する制度です。事実婚の関係は「同棲以上・結婚未満」というイメージで、法律的に結婚した夫婦とほぼ同等の権利が認められています。共同生活するのも離れるのも、結婚や離婚よりは気軽に行える事から子供を作るハードルが下がり、出生率のアップに貢献しています。
また、フランスは週35時間労働制が義務付けられており、残業や休日出勤などを強いられるケースは少ないです。夫婦が共に家にいられる時間が長くなるので、子育てするのに適した環境が作られているのです。加えて、フランスはベビーシッターなど家庭向けの子育て支援サービスが充実しています。日本のように待機児童問題で親が働けないという事はなく、子供を産んだ女性でも働きやすくなっています。
そのうえ、フランスは大学まで学費が不要です(学籍登録料などの名目で数万円程度)。日本では、大学進学時に借りた奨学金を返済出来ずに自己破産するような人も増えていますが、フランスではこういった心配はありません。子供の学費が最小限で済むという点が、フランスの子育てのしやすさに繋がっています。
このように、フランスでは政府が子供を産みやすい、育てやすい環境を作るために、様々な政策を行ってきました。一つ一つの効果は大きくないですが、複数の要素が積み重ねた事が、出生率の底上げに繋がったのです。
ただし、フランスで子供を多く産んでいるのは、アフリカなどからの移民が中心であり、純粋なフランス人の子供は少ないとの指摘もあります。同様なのがアメリカで、米国の2015年の出生率は1.84しかありませんが、中南米諸国から多くの移民を受け入れている事で、人口は年々増加を続けています。所得と出生率は逆相関の関係である事は、世界中の統計から明らかなのです。
フランスの出生率が回復した理由まとめ
・税金優遇や事実婚の容認など、子供を産みやすい制度がある
・ベビーシッターなど子育て支援サービスも充実している
・移民増加も出生率アップに繋がったが、治安は悪化した
日本でも、40年以上も前から出生率の低下が始まっていましたが、具体的な対策はあまり行われてきませんでした。近年になって、政府もようやく危機感を覚え、子ども手当の施行や保育園の増加など、本腰を入れるようになってきました。
出生率が上昇するには極めて長い時間が必要です。例えば、フランスで上記のN分N乗方式が初めて導入されたのは1946年で、その後1980年代に拡充されました。しかし、出生率のボトムは1994年だったので、効果が現れたのは数十年も先になったのです。フランスの様々な政策は、出生率アップの優秀なモデルケースと言えますが、日本が今から慌てて対策をしても、実際に出生率が上がるのは何十年も先の事なので、長期的な視点が不可欠なのです。
一方で、安易に移民受け入れに走って人口を増やそうとすると、治安の悪化を招く事は100%確実な事です。アメリカは言うまでもなく先進国で最も治安の悪い国ですし、フランスも近年シリア等からの移民が増えた事で街の秩序が崩壊し、花の都パリの街中にホームレスが溢れ返る惨事となっています。日本も(時間は掛かっても)地道な子育て支援を中心に出生率を上昇させることが重要で、治安が崩壊する移民受け入れは絶対に駄目です。