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戦後のタクシー料金の長期推移

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日本で初めてのタクシー会社「タクシー自働車株式会社」が誕生したのは、今から100年以上前の1912年8月5日です。当時の料金は1マイル(約1.6km)で60銭、以降は0.5マイルにつき10銭でした。同時期の山手線の一区間が5銭だったので、タクシーの料金はかなり割高でした。

その後タクシー業界は、第二次世界大戦時に大幅に縮小しましたが、戦後の高度経済成長と共に急拡大し、バブル期の1991年には2.2兆円もの市場規模となりました。しかし、バブル崩壊によって市場は縮小し、近年では1.5兆円程度にまで落ち込んでいます。

タクシー料金は1997年から自由化(料金幅は基準値の10%以内)されましたが、それまで地域によって一律でした。以下は、戦後のタクシー料金の長期推移をまとめた表です(東京23区)。

戦後のタクシー料金の推移
初乗り料金 備考
1952年 80円 2kmまで80円・500m毎に20円
1964 100円 1952年以来12年ぶりの料金値上げ
1970 130円 タクシー業務適正化特別措置法が設立
1975 280円  
1980 380円  
1985 430円  
1990 520円  
1992 600円 値上げは消費税3%の導入が理由
1997 660円 消費税5%による料金値上げ
料金の自由化(制限あり)
2006 660円 タクシー規制緩和で参入会社増加(2002年)
2015 730円 消費税8%による値上げ(2014年)

参考資料:物価の文化史事典(展望社)

1950年の初乗り料金は80円で、これは現在の物価に換算すると640円程度になります(⇒消費者物価指数の長期推移)。その後もタクシー料金は消費税の増税などを理由に複数回値上げされていますが、物価の変動を加味すると、常に500〜700円程度だった事になるので、実質的な金額は戦後70年ほど経っているのに、ほぼ変わっていない事になります。

1970年には、タクシードライバーの登録制や業務適正化事業の実施を定めた「タクシー業務適正化特別措置法」が設立されました。当時のタクシー業界は、市場の急拡大に伴ってドライバーの質やマナーが低下していたため、これを是正する事を目的に法律が作られたのです。

タクシー料金が硬直化する裏事情

そして2002年には、タクシーの規制緩和(改正道路運送法)が実施されました。具体的な緩和は以下の通りで、タクシー事業立ち上げのハードルがこれまでより格段に下がりました。

2002年の改正道路運送法の内容
  規制緩和前 規制緩和後
事業参入条件 認可制 事前届出制
車両の最低保持台数 60台 10台
営業所および車庫 所有必須 リースでも可
導入車両 新車限定 中古車でも可

この規制緩和によって、新規参入するタクシー会社が大幅に増加しました。MKタクシーのように、初乗り運賃を他者より50円程度安くする会社も現れました。そして各社の競争が激しくなった結果、長距離割引などが増え、遂にはワンコインタクシー(初乗り500円)まで登場するなど、利用者にとって様々なメリットがありました。

一方で、規制緩和による問題点もありました。規制緩和でタクシー台数が増えた事で、1台当たりの売上は減少し、運転手の収入も減りました。タクシードライバーの平均年収は約300万円と、サラリーマンと比較して100万円以上も少ないのです。この売上減少を補うために、ドライバーは収入を増やそうと無茶な運転をするようになり、事故の発生率が増加しました。

こうした問題を受けて、2009年には再び規制が強化され、タクシー業界へ自主的な車両数削減を求めたり、供給過剰な地域では増車を認めない、といった対策が行われました。自由化の議論がある度に、様々な問題が発生して、制度が硬直化しているのが現状です。

戦後のタクシー料金の長期推移まとめ
・タクシー料金は物価上昇を加味すると常に600円前後
・2002年の規制緩和で新規参入が容易になった
・規制緩和の度に問題が起きて、制度が硬直化している

海外では、タクシーの配車から料金の支払いまでスマホ上で完結する「UBER(ウーバー)」のようなサービスも急拡大しています。特に、無許可な素人でもバイト代わりに旅客業務を行える「ウーバーX」は人気です。しかし日本では、タクシー業界は厳しい規制に守られているため、ウーバーXのようないわゆる白タクビジネスは物理的に不可能です。

また「自動運転技術が進んでタクシードライバーが失業する」なんて口コミも見られますが、現実には向こう20年位はあり得ない事です(⇒タクシー運転手が絶対に無くならない裏事情)。

それもこれも、タクシー業界は「リストラされた中高年の雇用の受け皿」という暗黙の役割があるからです。規制に守られる一方で、上記のように戦後60年以上に渡り(物価上昇を加味すれば)ほぼ値上げされずに来たのですから、決してボッタクリ業界という訳でもないのです。

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