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世界で初めて電気洗濯機が発明されたのは、1908年のアメリカです。日本では、1930年に芝浦製作所(現・東芝)から発売された電気洗濯機「ソーラー」が、初の国産品です。とはいえ、当時のソーラーの本体価格370円は、現在の物価に換算すると約70万円相当と、庶民が気軽に購入できる製品ではありませんでした。しかし1950年代になると、洗濯機の改良が進み、値段も安価になっていった事で、一般家庭にも普及し始めました。
1950年代後半の日本では、白黒テレビ、冷蔵庫、そして洗濯機の3つを所有する事が、裕福さを表すステータスであり、家電の「三種の神器」と呼ばれていました。日本の高度経済成長と共に、洗濯機の普及も加速度的に進んだのです。
その後の洗濯機は、脱水や乾燥の機能が備わったり、洗濯物の数に応じて自動で水や洗剤の量が調節されるなど、多機能かつ高性能になりました。それに伴って、洗濯機の価格も値上がりしています。以下は、戦後約50年間の洗濯機の歴史と、その値段の推移です。
洗濯機の歴史と値段の長期推移 | ||
年 | 値段 | 備考 |
1952年 | 53900円 | 日立の市販品第一号 |
1957 | 21800円 | 普及率が10%を超える |
1964 | 23000円 | |
1970 | 36800円 | 普及率が80%を超える(1968年) |
1975 | 68500円 | 各メーカーが節水など技術競争 |
1980 | 38000円 | マイコン搭載など高度多機能化が進む |
1989 | 10万円 | 全自動洗濯機の登場(1987年) |
1995 | 10万2000円 | |
2004 | 18万3750円 |
※ソース:物価の文化史事典(展望社)
※値段は日立の主力機種の標準価格。
1957年の価格が21800円、2004年が18万3750円なので、単純な数字だけ見ると、洗濯機の値段は50年でおよそ8倍になっています。しかし、異なる年代の商品価格を比較する場合は、その間の物価変動も考慮する必要があります。
1955年の消費者物価指数が136.7、2005年が805.8なので、50年で物価はおよそ6倍になっています。よって1957年の洗濯機=21800円は、2005年では約13万円に相当するので、2004年の洗濯機(18万3750円)は1955年と比較して実質1.4倍程の値上がりです。洗濯機の値段は確かに上昇しているが、後述する性能向上もあるので、納得できる範囲と言えるでしょう。
かつては、主婦にとって「最も重労働な家事は洗濯だ」という口コミが支配的でした。洗濯機が無かった時代は、井戸端にタライを置いて水を汲み、その中に衣服を入れて石鹸を付けて擦るという原始的な方法で、大家族の衣服を洗っていました。洗濯は「洗多苦」という当て字が使われる程に過酷な作業だったのです。こうした問題を解消するために、洗濯機は発明されました。
世界で初めて洗濯機が作られてから100年以上経ちましたが、この間に性能は大きく進化しています。1930年の発売当初の洗濯機は「洗濯」の機能しか備わっておらず「脱水」や「乾燥」といった作業は人の手で行う必要がありました。
1954年に三洋電機から脱水機能付きの洗濯機が発売されましたが、現在と違って自動で脱水が行われるのではなく、手動でハンドルを回す事で脱水する、極めてアナログな仕組みでした。1960年に洗濯と脱水の機能を一体化した、二槽式洗濯機が発売されるようになりましたが、これも洗濯槽と脱水槽は別々だったので、洗い終わった洗濯物は手作業で脱水槽に移し替える手間がありました。
1970年代には、洗濯機の一般家庭普及率は98%に達し、一家に一台洗濯機がある事は当たり前の時代になりました。この頃の洗濯機にはマイコンが搭載され始め、洗濯物の量や素材に応じて洗い方を選択できるようになりました。
1987年には、洗濯と脱水に加えて、乾燥機能も付いた乾燥機付き全自動洗濯機が発売されます。洗濯物と洗剤を入れてスイッチを押すだけで、洗濯の全てが自動で行われるという利便性の高さから人気となりました。バブル期になってようやく、現在と同様の機能が備わった洗濯機が完成した訳です。
そして近年は、単純な洗濯の性能だけではない、付加価値のある製品が多く販売されています。例えば、日本では共働きの家庭が増えているので、夜に洗濯を行う人が多くなっており、時間帯を問わずに使える静音の洗濯機の人気が高いです。また、洗濯の回数を少なく済ませられる、大容量タイプの製品も売上を伸ばしています。
ところが、日本メーカーの洗濯機は海外であまり売れておらず、中国=ハイアール社や美的集団社、韓国LG社などの製品が人気です。
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日本の洗濯機は高性能ですが、その分値段も非常に高額です。新興国・途上国では、洗濯機はとりあえず洗えれば十分と考える人が多いので、高性能だが高価な日本製品よりも、中国や韓国のシンプルだが安価なモデルの方が売れているのです。
洗濯機の歴史と値段の推移まとめ
・洗濯機の値段は50年で1.4倍程度に増加した
・年々性能は向上し、脱水や乾燥機能も備わった
・日本の洗濯機は海外で売れず、中国の安い製品が人気
近年の洗濯機は、洗濯・脱水・乾燥と全ての機能が備わっており、もうこれ以上の進化は望めないようにも思えます。しかし、現在パナソニックではこれらの機能に加え、更に衣類の折りたたみまで自動で行う洗濯機の開発を進めているという事です。かつて主婦にとって最も重労働だった洗濯は、今では一番楽な仕事になりつつあるのです。