HOME > 生活 > ビール業界の市場規模とシェア
日本のビール業界は、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4社でシェアのほぼ全てを占める寡占市場です。この4社が、日本の大手ビールメーカーと呼ばれています。4社以外にも沖縄のオリオンビールなど、様々な中小の地ビールメーカーが存在しますが、その多くが地域限定の展開で量も限られ、たとえ口コミで人気が高まっても、大手4社の売上とは比較にならない状況です。
以下は、日本のビール市場(発泡酒含む)における大手4社のシェアを比較したグラフです。
ビール業界の売上シェア1位はアサヒビールです。1980年代前半までのアサヒは、キリン、サッポロに次ぐ3位でした。しかし、1987年に発売したアサヒスーパードライが爆発的なヒットにより、一躍トップシェアに踊り出ました。当時人気だったキリンが中高年からの支持が高かった事から、アサヒは若者層をターゲットに差別化を図ります。念入りな市場調査を実施し、若い世代が辛口のビールを好む事を発見したのが、スーパードライが成功した最大の理由です。
その後2000年代に入り、より値段の安い発泡酒が流行し始めます。しかし大手4社はほぼ同じ戦略を取るので、ウイスキーが本業のサントリーがビールでも存在感を高めた一方、サッポロが没落していった等、序列は多少変化しても相変わらず4社だけの争いでした。
そして2004年に、発泡酒に変わる「第3のビール」と呼ばれる商品が生まれます。第3のビールとは、通常とは少し製法を変えて作られた酒税の安いビールで、サッポロの発売した「ドラフトワン」が先駆けです。
法律上、アルコール類には高い税金が掛けられており、ビールの場合は350ml当たり77円が酒税として価格に上乗せされています。しかし法律の穴を付いて、使用する麦芽の割合を変えるなどして、ビールに近い味なのに酒税が安くなる製法で生み出されたのが発泡酒です。この発泡酒よりも更に酒税を安く抑えたのが第3のビールです。
税金の比較(350mlあたり)
・ビールの酒税=77円
・発泡酒の酒税=47円(30円安)
・第三のビールの酒税=28円(49円安)
このように、ビールメーカーが創意工夫をする事で、消費者に安いビール系飲料が提供できるようになったのです。以下は、そんな第3のビールのメーカー別シェアを表したグラフです。
アサヒのシェアが減少し、その分サントリーが増えているものの、上位4社でシェアのほとんどを占めている状況は変わっていません。なお、このグラフは2015年時のデータを基に作成していますが、2017年上半期にはアサヒが30.9%で首位を獲得しています。つまり、2017年時点でメーカー別ランキングは、第3のビールも通常のビールとほぼ同じになったという事です。
しかし2017年現在、政府は(税収確保の目的で)ビール類の酒税を一律55円で統一する方向で検討を進めています。この変更が実現すれば、発泡酒や第3のビールの価格優位性は無くなります。そもそも発泡酒などは、酒好きの人からは「味がイマイチだ」とネガティブな口コミが多かったです。そのため近い将来、発泡酒や第3のビールは消滅する・・・と予測されています。
様々な工夫でコストを抑えてきたビールメーカーにとって、税率変更で全てがパーになるのは気の毒な話ですが、一方で「ビール業界はそもそもの戦略が間違っている」との口コミもあります。日本国内での争いだけに終始し世界展開を怠ってきたツケが回ったのだ、という指摘です。というのは、日本市場では大手4社でシェアのほぼ全てを占めますが、世界市場では日本のメーカーのシェアは極めて小さいのです。以下は2015年の世界市場における、メーカー別のビール販売量ランキングです(単位:百万キロリットル)。
世界のビールメーカーの販売量シェアランキング | |||
順位 | 所在国 | メーカー名 | 販売量 |
1位 | ベルギー | アンハイザー・ブッシュ・インベブ | 40.8 |
2 | イギリス | SABミラー | 19.6 |
3 | オランダ | ハイネケン | 17.7 |
4 | デンマーク | カールスバーグ | 11.7 |
5 | 中国 | 華潤創業 | 11.6 |
6 | 中国 | 青島ビール | 8.5 |
7 | アメリカ/カナダ | モルソン・クアーズ | 6.0 |
8 | 中国 | 北京燕京 | 4.9 |
9 | 日本 | キリンビール | 4.2 |
10 | 日本 | アサヒビール | 2.3 |
※世界シェア1位のアンハイザー・ブッシュ・インベブは、要は「バドワイザー」です。
9位にキリン、10位にアサヒがランクインしているものの、上位のバドワイザーやSABミラーなどに比較すると、シェアは極めて小さいです。日本は携帯電話(スマホ)がガラパゴス化した事で知られていますが、ビール市場も同じようにローカル限定の商品と化しているのです。
★関連ページ;世界市場と日本でのスマホ機種シェア比較
日本は「若者の酒離れ」との口コミが溢れていますし、少子高齢化でビールの消費量が減少する事は確実視されます。日本のテレビや新聞では、夏になると必ずビール大手4社の激しいシェア争いが報じられますが、はっきり言って「井の中の蛙」であり、減り行くパイを奪い合う不毛な戦いに過ぎません。今後、日本のビールメーカーが売上を伸ばすには、ガラパゴス市場での椅子取りゲームを止めて、グローバル市場への進出に注力する事が不可欠です。
ビール業界の市場規模とシェアまとめ
・日本のビール市場は大手4社で売上シェアを寡占
・但し若者の酒離れや人口減少&高齢化で、国内市場は縮小する
・酒税の変更で、発泡酒や第三のビールが消滅へ?
・日本メーカーは世界のランキングは低く、典型的なガラパゴス業界
ちなみに、ビールの一人当たりの年間消費量が最も多い国は、ベルギーでもドイツでもなく、チェコです。日本人にとってはあまり馴染みのない国ですが、実はチェコはピルスナービール発祥の地です(現在、世界で飲まれるビールの原型)。チェコの1人当たりのビール年間消費量は142.4リットルで、日本(42.3リットル)の3倍以上に相当します。