HOME > 経済 > 税理士試験の受験者と合格者数の推移
税理士と聞くと、一般の人は「難関資格だ」とか「年収が高い」といったイメージを持つでしょう。実際に税理士は、医者や弁護士ほどでは無いにせよ、合格には平均5千時間の勉強時間が必要とされており、難関資格であることは事実です。では税理士試験の受験者数と合格者数はどの位で推移しているのでしょうか?
ご覧のように、税理士試験の受験者数は2010年以降は減り続けており、2017年は4万5千人とピーク時より4割も減少しています。少子化で若年層の数が減っているとはいえ、あまりに大きな減り方です。税理士の人気が低下している理由は明白で、それは「喰えない職業と化している」事が広く知れ渡ったためです。
ネットでは『税理士の平均年収は717万円』という口コミがまかり通っていますが、実際にはもっと低いのが現実です。というのは、この717万円というデータソースは、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」がベースになっており、そこでは税理士と公認会計士が一体で記載されています。つまり、より高度で年収も高い公認会計士が数値を釣り上げており、税理士単体の平均年収はもっと低い訳です。
また税理士内の格差も大きいです。実は税理士には、国税庁(税務署)で23年以上働くと自動的に税理士資格が得られるという、他業界では類を見ない、強烈な天下りシステムが存在します。国税庁のOB税理士は、税務署にも顔が利く=税務調査に入られにくい(※注)ということで、企業の顧問を請け負う上で圧倒的に優位な立場です。
※注;実際には「税務調査に強い」というのは一種の都市伝説で、OB税理士なら誰でも有利な訳ではありませんが、この口コミが古くから蔓延しているので、企業もOB税理士に頼りたがるのです。
従ってOB税理士と、その事務所で雇われて働くサラリーマン税理士や、独立して孤軍奮闘する試験組の税理士とでは、年収は桁一つ変わってきます。そして新米の税理士は、とてもじゃないが大口の仕事を獲得するのは難しいです。税理士には定年が無いので、その地域で立場を確立した古株〜特に天下り税理士が絶対的に強く、新規開業しても仕事を得られないのが現実です。
正確な統計では無いですが、専門家の話やネットの口コミ等を総合すると、税理士単体の平均年収は500万円台、中央値や最頻値は300万円台になると推計されています。雇われの身や新米開業者では完全にワープア、全く稼げないのが税理士資格の現実なのです。
日本屈指の難関資格であるにも関わらず、まともに喰えない職業だという情報が広く知れ渡ったことで、税理士試験の人気は低下し始めたのです。そして近年、マネーフォワードやFreeeなどのクラウド会計ソフトが進化し、税理士不要論が高まっていることも拍車を掛けました。
では税理士試験は、もはや受ける価値のないゴミ資格なのでしょうか?
税理士試験は、計11科目の中から5科目を選択し、合格することで税理士資格を得られます。必須科目もありますが、幾つかは受験者が任意で科目を選べる訳で、多くの人が需要の多い法人税法と消費税法を選びます。しかし将来を考えると、相続税や固定資産税など不人気科目を選ぶのも、生存戦略として有効ではないでしょうか?
まず、団塊の世代の大量死亡時代を迎え、相続の件数が増えていくのは「確定した未来」です。そして選択する人が少ないため、世の中には相続税に詳しい税理士が少なく「節税目的で依頼したのに役に立たない!」という嘆きの口コミは非常に多いのです。また固定資産税も、計算方法(解釈)によって税額が大きく変わるのに、詳しい税理士が少ないのが現状です。
確かに税理士の仕事として、法人税や消費税が圧倒的に多いのは事実ですが、当然ながら税理士間の競争も激しく、またクラウド会計ソフトが最も得意とする分野でもあります。税理士を目指すのであれば、ライバルの少ないブルーオーシャンであり、コンサル的な要素も含まれる(=会計ソフトに浸食されにくい)相続税法や固定資産税法を選択し、その道の専門税理士として生き残りを図る事が、生存戦略として正しいのではないでしょうか?
税理士試験の人気低下の理由まとめ
・税理士試験の受験者は極端な減少傾向
・理由は税理士が喰えない仕事という口コミが広まったから
・天下り税理士が強すぎて、試験に合格しても満足な食い扶持がない!
実は、税理士以外のサムライ業(「士」と付く職業)でも、資格の神通力が薄れ、年収の二極化が進んでいます。弁護士もテレビで見かけるような事務所を開業している有名人は、年収5千万円は下らないですが、そこで雇われているサラリーマン弁護士は500万円あればよい方だそうです。中小企業診断士や行政書士は、それ単体ではほとんど喰えないので、他の業務と兼業している人が多いとの口コミが支配的です。
AI(人工知能)が人間の仕事を奪う・・・と言われて久しいですが、失われる業務はパートやアルバイトが担う単純作業・低賃金労働だけでなく、資格の砦に守られてぬくぬくと生き延びてきた専門職も危ないのです。