HOME > 経済 > 住宅建設の経済効果
日本では、人口減少で空き家率が増加しているにも関わらず、住宅の過剰供給されていることが大きな社会問題となっています。近年は大東建託やシノケンなどが、相続税対策をエサに富裕層に投資用アパート建設を持ちかけた事などもあり、新規の住宅建設が止む気配がありません。
住宅供給が過剰でも政府が抑制策を講じない理由は、経済効果が大きいからです。住宅生産団体連合会によると、1千戸の住宅建設(250億円)が生む経済効果は、その二倍以上の517億円に達し、2割程度の税収効果もあると試算されています。
新築の家を購入すれば、単に不動産屋や工務店・大工だけに留まらず、様々な業種へ仕事が発注されます。家を建てれば、必ずライフラインの導入もなされるので、電気工事事業者やガス会社・水道会社が必要になります。新居への移転に、引越し業者も使われますし、そもそも家を買う人の多くが住宅ローンを組むので、銀行にもビジネスが発生します。
また新居へ移るにあたり、家財道具が必ず新規購入されます。タンスやテレビ・冷蔵庫などは使い続けても、エアコンは買い換える人が多い(取り付け取り外しのコストが高いうえ、部屋の広さも変わるので)ですし、カーテンや絨毯まで流用する人はまず居ません。引越しに際しては、必ず多くの家財道具が新調されるので、やはり大きな需要が発生します。
このように、新規の住宅が造られることで、様々な企業の売上が増加します。そして企業が儲かれば、設備投資や従業員の給料増加に繋がるという、二次波及効果も出ます。これら全てを換算すると、住宅価格の二倍にも及ぶ経済効果があるのです。
例えば、3千万円の住宅(家+土地)が売れれば、6千万円以上の経済波及効果が生まれ、税収も600万円ほど増える計算です。政府としては、これだけ強力な経済効果を生む行為に、わざわざ規制を掛けて景気を冷え込ませることは行いにくい訳です。
このように、住宅建設は大きな経済効果を生むため、どの国でも税制優遇を講じるなどして、基本的には「促進」しています。2008年のリーマンショックの原因となったアメリカのサブプライムローンは、月収20万円未満の貧困層でも、庭付き一戸建ての住宅が買えるという、どう考えても無茶なシステムでした。それでも規制が遅れた理由は、新規の住宅建設による経済効果が、アメリカ経済を牽引していたからです。
但し注意したいのは、アメリカと日本では事情が異なる点です。日本は将来的に人口減少が間違いない状況ですが、アメリカは緩やかに人口増加が続くと予測されています。アメリカの場合は、新規に住宅が作られても、それを満たす「需要」がある訳です。
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翻って日本では、人口が減ることが確実で、空き家率も上昇しているのに、新たに住宅やアパート・マンションが造られ続けているのです。バブル期には人口が横ばいでも、大家族から核家族へと社会がシフトしたことで住宅需要を満たしましたが、それも限界が来ています。
近い将来、日本ではほぼ間違いなく強烈な「家余り」の時代になります。この需給状況だけを見れば、賃貸住宅の家賃は下落するはずなので、よく言われている「持ち家と賃貸のコストは同じになる」との理論も破綻することになります。
住宅建設の経済効果まとめ
・住宅建設の経済効果は、物件価格のおよそ2倍に波及する
・但し日本では、人口減少で空き家率が上昇している
・経済効果が大きいので、政府が規制できない事が問題
余談ですが、日本では一戸建て住宅の価値は約20年でゼロになる、という前提で住宅ローンや売却額等が計算されます(木造住宅の減価償却が22年なので)。このような考え方自体も、新規の住宅供給を増やすための「経済政策」として導入されているようなものです。経済が拡張していた高度経済成長期には良かったのでしょうが、現代には明らかに不適合な考え方ですね。